スマートサイトとは?
21世紀初頭まで、視機能の回復を望むことのできない患者さんに対して、眼科の先生から福祉施設等で行われているリハビリテーションサービスの情報を提供するということは、全国的にもごく一部でしか実施されていませんでした。その原因としては、福祉サービスを受けることや当事者団体・訓練施設などを紹介することは、患者さんに暗に「あなたの病気は治りません」と告げることになるので心理的な負担が大きいということ、視覚障害に対する福祉サービスの情報が医療関係者に十分伝わっていなかったことなどがあげられます。
そのような状況を少しでも緩和する方法として、アメリカの眼科医会(AAO:American Academy of Ophthalmology)が始めたのが「スマートサイト」というシステムです。それは、見えない・見えにくい方の支援に役立つ情報を掲載したリーフレット等を眼科の先生が患者さんに渡すことを推奨するものです。患者さん向けと眼科の先生向けがあり、患者さん向けのリーフレットでは、保有視機能の活用法など生活に役立つヒントやロービジョンケアを受けることができる施設の紹介を行っています。眼科の先生向けでは、視力や視野が一定の条件に該当する患者さんを診察したら手渡すためのリーフレットが作られています。患者さんは資料からロービジョンケアの概要を知ることができ、そこに掲載されたホームページにアクセスすることで、より詳細な情報を得ることが可能となるものです。
米国版のスマートサイトは、ロービジョンケアの知識量に関わらず、実行可能な情報提供手段を公的に提供したこと、情報提供を眼科医の責務と位置付けたことが画期的でした。米国では、現在はスマートサイトという呼称は使われていないようですが、そのシステムは現在も使われ続けています。
日本版スマートサイト
日本では、ロービジョン学会理事の永井春彦先生によって、2007年に初めてSmartSight TMが紹介されました。その後2010年の兵庫県の「つばさ」を皮切りに、県単位でスマートサイトを作成する動きが徐々に全国に広がり、2021年には遂にすべての都道府県でスマートサイトが作られました。福井県の「羽二重ネット」、新潟県の「ささだんごネット」、広島県の「もみじサイト」など、独自の愛称をつけている都道府県もあります。
リーフレットを渡された患者さんが、自分から情報や支援機関にアクセスする確率は必ずしも高くないことがわかっています。そこで、リーフレットを渡すだけでなく、患者さんの了解を得たうえで、コーディネーターに連絡する仕組みを取り入れているところが多いのが日本版の特徴です。
日本でスマートサイトが広まった背景として、2012年ロービジョン診療保険点数化は非常に大きかったと思います。毎年多くの眼科の先生方が、国立リハビリテーションセンターで開催されている保険点数の算定要件となっている研修を受講されるのを見て、患者さんの生活を何とかしてあげたいという思いを持っていらっしゃる眼科の先生は、全国にとても多くいらっしゃったのだということを改めて感じました。
愛知県版スマートサイト
愛知県版スマートサイトも上述の研修のなかで、愛知県眼科医会の先生方と出会えたことがきっかけで製作することになりました。多くの都道府県で紹介先が数か所しかないという状況のなか、愛知県は視覚障害者に関係する事業所・団体が非常に多かったため、話し合いの結果、「訓練・講座」「機器・用具等の販売」「当時者団体」「小児のロービジョンケア」など分野ごとにまとめたのが特徴でした。その方式は都市型のスマートサイトとして、東京でスマートサイトを作る際にも参考にされたと伺っています。一方で、紹介先が多すぎるが故にどこを紹介すればよいのか分かりづらいという声もあったため、他県と同様に、一次相談窓口として下記問い合わせ先を掲載させていただいています。
愛知県版スマートサイトのこれから
愛知県版スマートサイトはあくまで眼科の先生方のための情報提供ツールであり、患者さんに手渡すためのものではありません。今後、施設の情報だけでなく、視覚障害者が利用可能な制度などをまとめた情報を患者さん向けのスマートサイトとして作っていくことが望ましいと考えます。
また、患者さんがどこに繋がり、どういう情報提供や支援を受けたかがすぐにわかるような「ロービジョン手帳」が医療・福祉・患者さんの共通のツールとして使えるようになることが望まれます。患者さん自身が所持し、自らの意思で提示するならば、個人情報の問題は解決されるのではないでしょうか。
スマートサイトはリーフレットを製作すれば終わりというものではありません。スマートサイトが患者さんにとって本当に有益なツールとなるためには、医療と福祉という、患者さんに対して果たす役割も、培われてきた文化も違う両者の「真の連携」が重要となると思います。その中で最も大事なのは、患者さんへの支援を通して、また、共通の研修を受講するなどにより、しっかりコミュニケーションをとっていって「顔のつながった関係」になることだろうと考えます。
私たち福祉側からは、提供できるサービスの内容や範囲、紹介いただいた方の対応結果などを丁寧に説明し、私たちの行っていることを知っていただく努力をし続けていくことが大切だと考えています。今回「ロービジョンサポートラボ」と題して、様々なテーマで話題提供させていただく機会をいただけたことはとても有難かったです。
*「ロービジョンサポートラボ」1st シーズンは今回にて終了いたします。
*問い合わせ先
名古屋市総合リハビリテーションセンター 自立支援部視覚支援課
名古屋市瑞穂区弥富町字密柑山1-2 TEL 052-835-3523
社会福祉法人名古屋ライトハウス情報文化センター
名古屋市港区港陽1-1-65 TEL 052-654-4521